成長する感覚を味わえる「海王の神殿」
─ それではダンジョンの話を。「海王の神殿」で時間制限をつけるというのは、賛否両論があったんじゃないですか?
青沼 
(しれっとして)賛否両論があったんですか?
一同 (笑)
─ また、とぼけちゃって(笑)。時間に追われながら謎解きはしたくないって思っちゃうじゃないですか。
青沼  それはそうですけど…。(岩本さんに)ファントムと砂時計はどっちが先だったっけ?
岩本 ファントムのほうが先ですね。
青沼 まず、絶対に倒せない敵としてファントムを作ったんです。無敵ですから、とにかくファントムからは逃げるしかないわけですね。そのとき、ただ逃げ回るだけだったら、さほど緊張感は生まれないので、「逃げ回るだけじゃあダメ」というふうにはできないかと考えて、そこで「時限」が必要だということになったんです。そんなダンジョンがあっても面白いでしょ。
─ ええ、通常のダンジョンにはない緊張感がありますよね。
藤林 「タイムアタック」の感覚ですね。
岩本  あの「海王の神殿」は、何度も入るようになっていますけど、そこでマップに書き込むシステムがとても生きてくるんです。
─ 確かに、前に入ったときに書き込んだマップのメモが参考になりますし、自分がどんどん学習していくのが実感できますよね。最初は時間内は絶対にムリだ、なんて思っていたのが…。
青沼 心の余裕も徐々に出てくるでしょ。
岩本 そういったことが上達する喜びに変わってくるんですよねね。
青沼 何度も経験することで上達していくというのは、『ゼルダ』のだいご味だと思うんです。そういった要素が、あのダンジョンに集約されていて、端的に試せるようになってるわけです。プレイヤーが成長するような感覚。そのような感覚は、シリーズを重ねるごとに、少しずつ薄まってきているように思えたんです。
─ 『トワイライトプリンセス』では、チャンバラがうまくなっていくような実感があったりしましたけど。
青沼 でも、一方では「成長って、単なるハート集めでしょ」みたいな意見もあって…。そこで、もっとプレイヤーが成長する感覚をストレートに感じられる方法はないのかって考えたときに、今回の「海王の神殿」が生まれたというわけですね。
↑サブタイトルの「夢幻」を意味するファントム。何をやってもやっつけられない敵だけに、逃げ回るしかないのだ
最後の最後で出てきた「砂時計」のアイデア
─ 「夢幻の砂時計」を、他のダンジョンに取り入れようというという考えはなかったんですか?
岩本 それをやると、さすがにしんどいですよね(笑)。
青沼 何度も入るダンジョンは1つに限定しようと。他のダンジョンを攻略して、アイテムを手に入れることで、「海王の神殿」はさらに攻略しやすくなっていくようなシステムになってるわけですね。『ムジュラの仮面』にも時間制限がありましたけど、あのときのシステムは僕の中に手応えとして残ってるんです。あのようなシステムを、違ったカタチで表現できないかなあって。それで、結果的に「砂時計」というアイテムが出てきたわけですね。
藤林 その「砂時計」のアイデアも、出てきたのは開発の最後のほうだったんです。
青沼 もともとダンジョンに入るたびに、滞在時間が延びていくようにしようということは決めていたんです。それをどのようなアイテムで表現しようかと考えたときに、ボスをやっつけるたびに時間が増えていくようにしようと決めていたんですけど、それって、どんなイメージにしたらしっくりくるんだろうって、なかなかアイデアがまとまらなくって。
藤林 だから、その部分は解決せずに、中途半端な状態がずっと続いていたんです。
青沼 でも、最後の最後のほうで「砂時計」のアイデアが出てきて、それがベストだということになったんですね。だから、最初からおぜん立てが全部整っていたのではなくって、遊びの手応えが出来てから、細部が固まっていくような感じでしたね。『ゼルダ』シリーズはいつものことなんですけど(笑)、ストーリーが先にありきではないんです。だから、最後につじつまを合わせなきゃならない(シナリオを担当した藤林さんを指しながら)この人がいちばん困ったと思います(笑)。
藤林 最後の最後で、バラバラになったものを渡されて、全部つなげなさいって。しかも、「ラインバックは絶対にこうじゃなきゃダメ」だって言う人もいるし(笑)。
岩本 「ラインバックはこんなふうにはならないよ」って言ってたよね(笑)。
青沼 ラインバックは岩本の分身だからね(笑)。でも、ラインバックに関してはいちばん重要なところがまとまっていなくて、岩本と2人で「あーでもない。こーでもない」ってやって、最後に直したもんね。

↑2000年に発売された『ムジュラの仮面』(N64)。月が落下する3日の間に、リンクはさまざまな謎解きや冒険を…
学生の企画から生まれたWi-Fiバトル
─ 「海王の神殿」のシステムは、Wi-Fiバトルにも生かされてますよね。
青沼 Wi-Fiバトルも面白いですよー! ファントムの緊張感がたまらないんです。
─ Wi-Fiバトルは、『砂時計』をクリアしてから遊ぶと…。
青沼 (うれしそうに)そうなんです! Wi-Fiやってから「海王の神殿」に行くと、ファントムが怖くなくなっちゃうんですよ。
岩本 やっぱり、Wi-Fiバトルの生身の人間を相手にするほうが怖いんですよね。
─ 最初からWi-Fiでやることは決まっていたんですか?
青沼 ええ。『ゼルダ』に対して、とくに海外ではオンラインプレイを求める声は、昔から強いんです。でも、『ゼルダ』をよくあるバトルゲームのようにして、Wi-Fi使って見えない相手と切り合ったりするのは、何か違うよね、という話もあって。
─ そうすると殺伐としたゲームになりますよね。
青沼 それで、今回はゲーム中にある「海王の神殿」のシステムを、Wi-Fiバトルに落とし込むことにしたわけです。ファントムをタッチペンでラインを書いて操作したり、リンクがトライフォースを陣地に運ぶというシンプルな遊びは、鬼ごっこやかくれんぼの遊びに通ずるものがあるわけですね。
─ どのようないきさつでWi-Fiバトルが生まれたんですか?
青沼 任天堂は、学生を集めてゲームセミナー(※解説3)というのをやってるでしょう。実は僕、おととしくらいにこのセミナーの講師をやってまして、そのときに企画書の見本として考えたアイデアが元になっているんです。ボードゲームに「スコットランドヤード」というのがあって、警察が怪盗の居場所を推理しながら遊ぶ、鬼ごっこのようなゲームで、それと似た感じで、「音」を手がかりに敵の位置を推理するという遊びはどうかと考えていたものがあって、最終的には原型をとどめていないですけど、それが元になってるんです。
─ そうだったんですね。
青沼 それで、そのときの企画では、逃げる側と追う側をそれぞれターン制に切り替えて遊ぶものにするつもりだったんです。でも、その企画書を見た宮本から「テレビゲームはリアルタイムにいろんな変化が起こるのが面白いのに、それをターン制にするなんて全然ダメ。だから青沼はシロートって言われるんや」って言われてしまって。僕は素直に「はいっ」って答えるしかなかったんですけど…。でも、そのような赤裸々なシーンもVTRに撮って、生徒に見せながら、(頭をかきながら)「こんなん言われちゃいましたー」って(笑)。
─ 教材にしちゃったわけですね(笑)。
青沼 その企画はセミナー用だったんですけど、いつかものにしたいなあと思っていたんです。それで今回の『ゼルダ』でWi-Fiを採用することになって、「昔、こんなん考えたんだけど、使えない?」ってスタッフに話をしたら、それを基にゲームを作ってくれたんですね。


シエラの解説3
ゲームセミナー=学生にゲーム制作を学んでもらうことを目的に、毎年開かれてるセミナーのことよ。ここから任天堂に入った学生さんもいるし、興味のある人は任天堂のホームページでチェックしてね
10月からは海外の人とWi-Fiバトル
青沼 僕好きなんですよ、鬼ごっこみたいな遊びが。かくれんぼもそうですけど、敵の目をかすめるような感覚が楽しくて、そういったことがDSでやれたら楽しいだろうと思ったんです。
─ Wi-Fiバトルには、GCソフトの『パックマンvs.』の要素も入ってる感じですよね。
青沼 そうそう。コネクティビィティ(※解説4)で実現させた『パックマンvs.』とか、いろんなゲームの要素が入っていて、ひとつのものにまとまってる感じですよね。最初は宮本も、このWi-Fi対戦が入ってるから、今回の『ゼルダ』は大丈夫だと言ってたくらいなんです。ところが、本編を遊んでみたら、すごく面白くなっていたので、「すごくいいゲームになったね」という評価になったんですね。
─ もともと宮本さんは、『パックマンvs.』のような対戦ゲームの楽しさを広めたいという気持があるようですね。
青沼 そうですね。そういったことが僕の頭の中にも残ってるんでしょうね。だから、お釈迦さんの手のひらで踊らされてるようなもんですけど。
─ ところで、海外での発売はどうなんですか?
青沼 北米が10月で、ヨーロッパもその近辺を予定しています。ですから、海外の人とは10月からWi-Fi対戦が楽しめるようになります。ヨーロッパの人たちはいちばん後発なんで、日本人と当たったら、「イヤだー」って逃げちゃうかも(笑)。
─ 『マリオカートDS』のときは、アメリカの後に発売されたので、Wi-Fi対戦でひどい目にあった日本人ユーザーが多かったんですよね。
藤林 だから、今回は『ゼルダ』でリベンジしましょう!(笑)

シエラの解説4
コネクティビティ=ゲームキューブとGBアドバンスをつないで、遊びの幅を広げるシステムのことね。『ゼルダ』シリーズでは『4つの剣+』と『風のタクト』が対応していたのよ。覚えてる?
↑任天堂とナムコのコラボで生まれた『パックマンvs』。GBアドバンスにつないで遊ぶ非売品のGCソフトだったのだ

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