ライバルは『脳トレ』?DS版ゼルダ開発の船出
─ DS初の『ゼルダ』がいよいよ発売ですね。おめでとうございます!
青沼 ありがとうございます!
─ 前回の『トワイライトプリンセス』のインタビューのとき(07年2月号)、青沼さんは「DS版『ゼルダ』がすごくいい感じに仕上がっている」って言ってたじゃないですか。でも実を言うと、それを聞いても「そうなの?」って感じだったんです。
青沼 信用していなかったと(笑)。
─ ええ(笑)。でも、遊んでみて反省しました。すごいですね、これ。まぎれもなくシリーズ最高傑作だと思います。
青沼 うれしいですねえ。
─ そもそも開発は、いつごろスタートしたんですか?
岩本 04年の5月くらい、『4つの剣+』が終わってすぐでしたね。DSは発売されていなくて、まだ試作機のような段階だったので、2画面やタッチペンを使ってどんなことができるんだろうといった実験から始めました。
青沼 社内では、ほかにもDSソフトのラインナップはあったので、わりとゆったりとしたペースでね。最初の1年ぐらいはたった5人のチームで開発していたんです。
─ 前回のインタビューでおっしゃっていた、「静かに燃える集団」ですね。
青沼 そうそう(笑)。
岩本 燃えていたのか、燃え尽きていたのか(笑)。かなり長い間、少人数でやっていましたね。
─ 藤林さんも最初から?
藤林 僕は途中から。僕が入ったときには、タッチペンでリンクを動かすとか、マップに書き込むといった基本部分は出来つつありました。
─ 藤林さんも最初から?
どんな経緯で、そのようなゲームになっていったんですか?
岩本 開発当初は『4つの剣+』からの流れで、コネクティビティ的な2画面の使い方というようなテーマでやっていたんですけど、そのうちに青沼が「もう、そういうのはやめようよ」と言い出したんです。DSでのスタンダードとなるような、まったく新しい『ゼルダ』のシステムを考えようと。それで、どんな単純なことでもいいから、とにかくタッチペンを使うゲームにしようというテーマに行き着いたんです。
青沼 何もかもタッチペンで操作するんだっていう方向にしてから藤林も加わり、チーム全員がタッチペンを使ったシステムをどんどん作りだしたんですね。そういう動きを受けて、06年3月にアメリカで開催されたGDC(※解説1)で、社長の岩田が「DS版『ゼルダ』を06年内に出す」って発表したんです。でも、結局、発売は翌年(07年)になってしまいました。
─ 開発は難航したんですか?
青沼 いえ、DS版の開発は順調だったんですが、『トワイライト』を完成させてから僕も開発に深くかかわりたかったので、会社にわがままを言って発売時期を延ばしてもらいました。
─ プロデューサー特権ですね(笑)。けど、時間をかけたおかげでさらに完成度が高められたと。
青沼 当初は、短期間でいいものを作って、パッと発売したいって考えていたんですよ。ライバルは『脳トレ』だと思っていますから。『脳トレ』って、まるで頭のいい転校生みたいなんですよ。これまで僕ら『ゼルダ』チームは、学年トップっていうほどじゃないけど、すごく勉強してそれなりの点をとっていたにもかかわらず、その転校生は勉強している素振りも見せずに、いきなり軽々トップを取っちゃったみたいな。それが、めっちゃ悔しかった。こっちは3年間もかけて、死にものぐるいでようやく『トワイライト』の完成にこぎつけているのに、あっちはすごくスマートにかっこよくトップをとっていくので、「ちっきしょう!」って思うじゃないですか(笑)。
─ それでDS版『ゼルダ』では、スマートにしてみたかったと。
青沼 でもやっぱり『ゼルダ』って、どうしても短期間でスマートにかっこよくなんてできないタイトルなんですよ(笑)。開発している自分たちですら気づかぬうちに、どんどん大きくなっていきますから。
岩本 最初はこぢんまりとしたものを作ろうとしていたんですけど、だんだん作っていくうちに欲が出てきて…。
青沼 アイデアを1つ思いつくと、そこから芋ヅル式にほかのアイデアが出てくるんです。それでどんどん広がるという。
藤林 僕が開発に入ったとき、(両手をちっちゃく広げながら)「これくらいの規模のゲームやから」って伝えられたんですが、内心では「いやいや、そうはいかんやろ」って感じていましたしね(笑)。
岩本 チームに入ってきたとき、やたら確認してたよね、「このゲームは、どれくらいの位置づけですか?」って。
藤林 「ゼロから10までのゲージがあるとしたら、2〜3ぐらいのライトな感じ」って言ってましたよね。でも、そんなわけないって最初から疑ってました。
青沼 ディレクターの岩本は、小さいことからコツコツ始めてどんどん大きくしていくタイプ。サブディレクターの藤林は、ほうっておくとどんどん広がっていくという『ゼルダ』が持っている宿命をちゃんとわかっているので、全体像を確認しながら進めるタイプ。だから、このコンビはバランスがとれているんですよ。
PROFILE
プロデューサー
青沼英二 あおぬまえいじ
1963年3月16日生まれ。長野県出身。『マーヴェラス〜もうひとつの宝島〜』(96年SFC)の開発後、『時のオカリナ』(98年N64)から『ゼルダ』シリーズにかかわり始める。ディレクターを務めた『ムジュラの仮面』(00年N64)、『風のタクト』(02年GC)を経て、『4つの剣+』(04年GC)からは宮本さんに代わって『ゼルダ』シリーズの総合プロデューサーとなり、『ふしぎのぼうし』(04年GBA)、『トワイライトプリンセス』(06年Wii)を世に送り出す。血液型はA型
ディレクター
岩本大貴 いわもとだいき
1969年11月17日生まれ。大阪府出身の三重県育ち。『スーパーマリオ64』(96年N64)などの開発後、青沼さんと同じく『時のオカリナ』から『ゼルダ』シリーズにかかわり始める。当時の担当はシネマシーン・アシスタントディレクター。印象深いカメラワークを駆使して、さまざまなデモシーンを演出した。ほかの作品に『ルイージマンション』(01年GC)、『神々のトライフォース&4つの剣』(03年GBA)、『4つの剣+』など。血液型はA型
サブディレクター
藤林秀麿 ふじばやしひでまろ
1972年10月1日生まれ。京都府出身。カプコンで『マジカルTETRISチャレンジfeaturingミッキー』(99年PS)などのプランナー、ディレクターを務める。カプコン開発のゼルダシリーズ『ふしぎの木の実』(01年GBC)でディレクターに抜擢され、以後『神々のトライフォース&4つの剣』の「4つの剣」や、『ふしぎのぼうし』を生みだした。本誌インタビュー初登場は124号(04年)。当時はカプコンの社員だったが、その後退社して任天堂へ。血液型はAB型
↑04年に発売された『4つの剣+』は、GBAとつながる(コネクティビティ)をテーマに開発された、ゲームキューブソフト

シエラの解説1
GDC=ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンスの略で、直訳すると「ゲーム開発者会議」ということになるわね。毎年、アメリカのサンノゼで開かれていて、今年は青沼さんが講演を行ったのよ
宮本さんはちゃぶ台をひっくり返さなかった
─ ところで『トワイライト』のときは、宮本さんのちゃぶ台返し(※解説2)が何度もあったという話でしたけど、今回はどうだったんですか?
青沼 なかったんですよ、これが。もちろん最初の基礎的な部分は見てもらっていましたけど、ほぼ完成したゲームを「遊んでみてください」って持っていったら、後から電話がかかってきて「これ、おもろいわ。売れると思う」って、それだけ。そんなこと、僕がディレクターをしたゲームでは言われたことないんです。
─ 宮本さんも文句をつけようのないくらい、よく出来ていたわけですね。
青沼 まあ、宮本に見せる前に、僕がたびたびひっくり返していましたけど(笑)。
藤林 ダメ出しするだけでなく、自分で書いた仕様をねじこんでいましたよね。
青沼 それは、みんなが作っていたゲームがよく出来ていたから。よく出来ているから、もっとよくしたいという気持にどうしてもなるじゃないですか。
─ それは、例えばどういった部分ですか?
青沼 例えば序盤の展開。最初に見たときは全然引き込まれなかった。こんなんじゃ、プレイヤーがリンクになって冒険に出ようなんて気持にはならないでしょ、とNG出したり。
藤林 そのときは、シナリオがやたら説明的だったんですよね。
青沼 そんな感じでいろいろな部分にこまかく突っ込んだんで、宮本からは何も言われなかったですね。
─ 以前に青沼さんは「宮本は、ちゃぶ台をひっくり返しても、自分で片づけを手伝ってくれる」とおっしゃっていましたが、青沼さん自身は…?
青沼 (岩本さん、藤林さんを見ながら)手伝うよね?
藤林 ひっくり返した後の段取りがしっかり見えるようになってから、ちゃぶ台を返すタイプかな(笑)。


シエラの解説2
宮本さんのちゃぶ台返し=開発の途中で仕様や企画がひっくり返されることね(大変そう…)。タイム誌に「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた宮本さんのことは、もちろん知ってるわよね
生まれて初めて『ゼルダ』をプレイする人たちへ…
─ これほどDSが幅広い層へ普及したことによって、『夢幻の砂時計』で初めて『ゼルダ』をプレイする人も多いと思います。タッチペンだけでの操作は、そういったプレイヤーを意識してのことですか?
青沼 そうですね。もちろん従来の『ゼルダ』ファンにも楽しんでもらえる要素は、てんこ盛りに入っていますよ。でも、そういう楽しさを味わってもらうのに、初心者であろうがベテランであろうが、難しい操作は必要じゃないですよね。快適な操作のほうがいいに決まっていますから。そのためのタッチペン操作です。初めて『ゼルダ』をプレイする人にとっては、最適なものが出来たと思っていますよ。今のところ、これ以上のものは考えられません。
─ ストーリーは『風のタクト』の後日談となっていますが、『風のタクト』をプレイしていないと面白味に欠けるのでは…、と心配している人に対しては?
青沼 そんな心配は無用ですよ。逆に、『夢幻の砂時計』をプレイしてから『風のタクト』を遊んでもらってもいいと思っていますから。一応ストーリーはつながっていますが、それを知らないと楽しめないというものではないので。『ゼルダ』シリーズではいつものことなんですけど、遊びの仕組みを作ってからストーリーや舞台設定を考えているんです。だから今回は、ストーリーを書いた藤林がいちばん苦労したかも?(笑)
藤林 ばらばらの材料だけ渡されて、これをつじつまが合うようにつなげなさいって。しかも岩本からは、「ラインバックはこんなこと言わない」とか、いろいろ注文がうるさい(笑)。
岩本 リンクと冒険を共にするラインバックは、僕のこだわりのキャラクターですから。
青沼 岩本の分身ですよね、まるで。
─ 「謎解きが難しそうなゲームだなあ…」と、『ゼルダ』を食わず嫌いしている人も少なからずいます。
青沼 うーん…………。確かに『ゼルダ』は、いろいろな謎を解きながら進めるゲームですけど、ふとしたきっかけでその謎が解けたり、そのときに大きな喜びを感じたり、「オレって頭いいかも?」と思えたりすることが、おもしろさじゃないですか。ところがN64のころから、そのおもしろさを味わうためにはボタン操作を覚えることから始めて、とても苦労しなければならない、みたいなイメージが遊んだことのない人の間で広がってしまったんですよね。今回は、そういう謎解きの本質的なおもしろさを直感的に楽しんでもらえるようにと考えてタッチペンの操作にしたので、慣れなんかはまったく必要ありませんし、とにかく触ってみれば、おもしろさを実感していただけると思います。
─ 実際に『夢幻の砂時計』を遊ぶと、周りの人にオススメしたくなっちゃうようなところがありますよね。
青沼 だから僕、友達に配ろうと、『夢幻の砂時計』を5本予約しているんです。とにかく遊んでもらいたいから。遊んでもらって、そして広めてもらおうと思ってるんです。
─ その友達って、テレビに出てるような有名人とか…?
青沼 いえいえ、フツーの友達です。今年の正月に久々に会った中学の同級生なんですけど(笑)。僕がゲームを作っているって話をしたら、「うちの子どももWiiを買ったよ」って。それで「『トワイライト』はやってる?」って聞いたら、買っていないと。「何でだ!」って思うじゃないですか(笑)。
─ 『トワイライト』と『砂時計』をセットで贈るとか(笑)。
青沼 そんなに買ったら、奥さんにどやされますよ(笑)。もちろん『トワイライト』だって誰にでも遊んでもらえるように作ってはいるんですが、『砂時計』が出来上がったとき、これを僕と同じ世代の人たちにも遊んでほしいとすごく思えたんですよ。
─ 友達はDSを持っているんですか?
青沼 ええ、み〜んな『脳トレ』やってます(笑)。

↑『風のタクト』が発売されたのは02年。GCソフトはWiiでも遊べますよ


↑リンクと冒険を共にするラインバック。「?」な男だけど、ファンが増えそう

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