123456後編

5歳から95歳まで楽しめるアトラクション
─ それにしても時雨殿はいいところですね〜。
宮本 いいところでしょ(笑)。ここでは貴重な経験をさせてもらいました。
─ 宮本さんは、時雨殿にどのくらいかかわったんですか?
宮本 時雨殿の中のアトラクションは全部かかわってますね。1階のモニターでUFO飛ばしたり、2階で竹筒の音や朗詠を流したり。本当は、もうちょっと景色の案内とか、ボタンを押すと好きな歌を朗詠してもらえるようなことも計画していたんですけど、規模があまりに大きくなりすぎてしまうので、自分を抑えました(笑)。
─ もともと宮本さんは、百人一首が大好きだったんですか?
宮本 そういうことはないんですけど、任天堂はもともと、花札や百人一首が発祥の会社じゃないですか。もう1つには僕自身も、こういった大型のアトラクションを造ってみたいなという気持があったんですよ。
─ そうだったんですか。
宮本 ええ。なので、よく視察でディズニーランドには行きました。
─ ゲームソフトと違って、テーマパークだと、お客さんの反応が直接見られるおもしろさがありますよね。
宮本 エンターテインメント全般に興味があったので、水族館や体感展示の美術館なども好きでよく行くんです。だから、この時雨殿の話があったとき、「やりたいな」ってすぐ思ったんですよ。あと、時雨殿にかかわることになった理由をもう1つ挙げるとすれば、DSを博物館の展示とか、公共の場で使ってみたいなとずっと思ってたんです。DSをどう使えるかはわからへんけど、展示会に行ったらCDとか貸してくれるでしょ。そんな感覚でDSを使えへんかなって。例えば、DSを持って公園に集まって遊ぶようなことをしたいなってずっと思ってたんですよ。今の任天堂ではすぐにアトラクションを手がける予定もないので、そんなことを「時雨殿の中でやったらどうですかね?」って山内(山内溥さん=現任天堂相談役)に提案したんです。
─ そうしたら「おもろいやん」ということに?
宮本 「それはおもろそうだな」って。山内自身も博物館のようなカルタの資料展示とか、文化的保存といったようなことだけに時雨殿を使うのではなく、もっと幅広い人に百人一首に興味を持ってもらうことに使おうと計画してはったみたいなんです。普及を考えるのは大事ですし、それが基本やと思うんでね。それで、任天堂のビジネスに絡むというところで、「興味があるんならやってくれてもいいけどな」っていう話になって。こちらとしても、やってみたいし、会社の経験にもなるので、「やらせてもらいます」となったんです。だから、任天堂は「協力」という立場で、その代わり、この場所とここで使う予算に関しては時雨殿側から提供してもらうという持ち寄りでやることになったわけです。
─ 任天堂側からは人材なども派遣されているわけですよね?
宮本 開発はね。でも、運営に関してはうちは一切やってないです。まぁメンテナンスの中で、うちの関係者が見なきゃいけないこととかもあって…。具体的に言うとソフトのバグですけど(笑)。そういうことでは携わってますけどね。あと、アトラクションは、ちょっとずつどっかで変えていかなきゃアカンというのがあって、将来どういった変更を加えていくのかとか、そういうのも含めてちょこちょことかかわりを持っているといった感じですね。でも、基本的に時雨殿は、財団の建物ですし、任天堂とは全然関係の無い施設なんです。言ってしまえば、僕らの仕事の納品は終わったわけで、メンテナンス以外では関係者ではないんです。
─ とはいえ、宮本さんのインタビューがこうやって実現できたわけですね(笑)。
一同 (笑)
宮本 たくさんの人にここの魅力を知っていただきたいですしね。京都の観光スポットとしても新しいですし、いちばん任天堂らしいというか、5歳から95歳まで楽しめるんですよ。こないだも来たんですけど、子供がはいまわっているんですよね。床のモニターに京都の空中映像が映し出されるようになっていて、目的地に鳥が飛んでいって案内してくれるんですが、普通、大人は「フムフム」とか「よくわからへん」ってなるんやけど、おじいちゃんとかおばあちゃんが、「ん?ん?ん?」とか言いながら、“時雨殿なび”を押してはるし、子供がはいずりながら鳥をウワーっと追いかけてるのを見るのが楽しくて。とくに小さな子供は意外な喜び方をするんですよ。そういうのを見てて、わかりやすいものをつくるっていうのは大事やなってあらためて思いましたね。幅広い人が遊べる場所やと思います。
─ 次の時雨殿の展開も楽しみですね。さて、ということで…(笑)。
宮本 そうやった(笑)。これぐらいで終わらんと(笑)。
PROFILE
宮本 茂 みやもと しげる
任天堂専務取締役 情報開発本部長 
ご存じ『マリオ』『ゼルダ』をはじめとした数々の傑作を生み出してきたゲームクリエイター。
1952年
11月16日京都府園部町生まれ
1977年
金沢美術工芸大卒、任天堂入社(配属は企画部)
1990年
日本文化デザイン賞 受賞
1996年
日本ソフトウェア大賞 '92 MVP 受賞
1996年
朝日デジタル・エンターテインメント大賞 ホーム部門個人賞 受賞
1997年
第5回日本ソフトウェア大賞 MVP 受賞
1998年
THE HALL OF FAME AWARD 受賞
マルチメディアグランプリ1998
MMCA会長賞 受賞
2003年
Hall of Fame Industry Personality of the Year Award 受賞
2004年
eAT' 04 KANAZAWA名人賞 受賞
2006年
フランス政府芸術文化勲章シュバリエ賞 受賞
※個人で受賞されたもののみ掲載しています
時雨殿について
時雨殿
今回のインタビューの舞台となった時雨殿は、最新のテクノロジーを使用した体験型のテーマパーク。2006年1月27日に開館し、小倉百人一首文化財団が運営。
開館時間 10:00〜17:00(入場は16:30まで)
休館日 月曜日、年末年始
入館料 高校生以上800円、小中学生500円

交通など詳しくはホームページを参照!
http://www.shigureden.com/
時雨殿なび
↑ボタン類が一切省かれている「時雨殿なび」
DSは正しいと思うことをやった結果
─ それにしてもすごくいい風が任天堂に吹いてますね。
宮本 ありがたいですね。
─ DSがすごく大ヒットしているわけですが、どういうふうにお考えですか?
宮本 僕らはずっと、正しいと思うことをコツコツやってきてるんですよ。けど、「正しいことをやってるだけじゃ商売にならないしね」とか、「世の中、正しいことだけで動いてないからね」っていうふうに言われますし、実際そうですよね。でも、任天堂は正しいことを真面目にコツコツやってきたので、そういうことをやっていれば、いつかは報われるのかっていう感じで、今回も救われた感はしますね。
─ 7〜8年前にも同じことをおっしゃってましたね。N64が苦戦する中で、『時のオカリナ』が大ヒットして、「やっぱりいいものをコツコツつくるのが大事やね〜」と。
宮本 それしかないんですよ。コツコツ正しいと思うことをやる以外に。肌で感じたゲーム市場っていうのは、僕らが仕掛けたことをファンがおもしろいって言ってくれると、自分らは支持されていると思ってくるわけです。例えばマリオクラブ(正式名称:スーパーマリオクラブ。デバッグや発売前のゲームソフトをプレイして評価するセクション)にゲームの評価をしてもらうと、こちらがおもしろいと思って仕掛けたことをおもしろいって言ってくれる。もし仮に彼らがおもしろくないって言ってきても、僕らはおもしろくする方法を知っているんです。僕らはずっとそういう関係でやってきたんです。
─ つまり、なれ合いのような…。
宮本 そう、なれ合い。でも、そんなことを続けてると、自分たちに対する世間の価値の変化に気がつかなくなってしまうんです。
─ 最初の『ピクミン』を出したとき、宮本さんは「村の中に閉じこもっていちゃダメだ」とおっしゃっていましたね。
宮本 ゲーム産業を例えると「大きな村」なんです。しかも、その村の中心、ゲーム産業のいちばん元気があるところにいたら、外の世界がなかなか見えなくなってしまう。中心にいたらチヤホヤされたりするし、すぐ周りには熱狂的な人もいるし。でも、数年前から任天堂が「中心から少し外れましたよね」って世間から言われるようになって…。でも、そのことは逆にゲームマーケットそのものが、実は世の中からずれてきているということに、早く気づくチャンスにもなったわけです。
─ なるほど。端っこに行かないと全体の世界は見渡せないですからね。
宮本 ずっと冷静に見ていて、それはゲーム業界がダメになってるとかではなくて、村社会を超えた、もっと広い世界の渦の中で、任天堂をどういう存在にしたらいいのかを考えるチャンスがいっぱいあったんです。それはよかったですね。そこで出した回答のひとつが「5歳から95歳まで楽しんでもらう」というキャッチフレーズだったわけです。もちろん、今のゲームを否定するわけではないんですが、「ゲームは難しいからやりたくない」という人が増えてるし、「ゲームは自分に関係ない」と考える人がものすごく多くなっているんですよね。
─ そのとおりですね。昔は「50時間遊べるRPG」と聞いたときに、「50時間も遊べるのか」と喜んだのに、今は「50時間もかかるのか」になってますからね。
宮本 視察で行ったディズニーランドの話ですけど、あそこは子供のためのテーマパークのようで、実際は大人たちも喜んで行きますよね。ゲームというのはバーチャルなものですから、ああいった実在感のあるものにはなかなか勝てないんですよ。でも、視察しながら思ったのは、任天堂自身も実在感のあるものになっていかなアカン。実在感のあるものをつくっていかなアカンと。僕らはこれまで、ゲームをつくりながらいつも「手触り感が大事」だとか、いろいろ言ってきましたけど、それはパッケージの中にバーチャルな空間をつくって、その中で“手触り感”を求めてきたわけです。でも、これからはもっと日常生活の中で、ゲーム機そのものを身近な存在に感じてもらうことが必要だと思ってるんです。
─ 例えば、『nintendogs』が出たとき、DSをリビングのテーブルの上に置いておいて、家族みんなが好きなときにのぞき込んだり、触ったりする楽しみ方があってもいいとおっしゃってましたね。
宮本 うん。携帯電話がそんな姿になっていると思うんです。だから、ゲーム機も生活の中に入り込んでいけるとずっと思っていたんでね。そういう意味では、据え置き型で出した答えはWiiなんですけど、まずはDS、携帯型から新しい答えを出すのに、ちょうどいいタイミングだったんじゃないかなと思いますね。
『時のオカリナ』画面
↑手触り感と空気感が最高だった『時のオカリナ』

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